同じハンドメイド作家でも、「プロ並みに上手に作れるのに売れない作家」がいる一方で、「素人に毛が生えたレベルなのにバカ売れしている作家」がいます。
うちの奥さんは元お花屋さんで、現在はフラワーアイテムのハンドメイド作家です。プロ並みの完成度にも関わらず、初めの6ヶ月間はただの1つも売れませんでした。
しかし「商品」と「作品」の違いに気付いてからは意識が180度変わり、あっという間に月10万円売り上げるようになりました。
- 「作品」を作っているのか?
- 「商品」を作っているのか?
売れている作家は、両者の違いを明確に意識しています。
一応先に言っておくと、どちらか一方に全振りすることはありません。どちらに比重を寄せるかが、「売れる作家」と「売れない作家」の分かれ道になります。
この記事では、
- 「作品」と「商品」の本質的な違い
- 売れている作家がどちらを意識しているか
を解説しています。
ヒントは、メジャーバンドとインディーズバンド
それぞれがどっちを意識しているかを考えてみると、答えが見えてくるかも?
コレが理解できれば、売上0の作家は、1つまた1つと売れていきます。一部だけが売れていて、次のヒット作に苦しんでいる人は、突破口を開くキッカケになるでしょう。
ハンドメイド作家が売れる方法を詳しく言語化しているので、ぜひ最後までチェックしてみてください!
「作品」と「商品」の違い
「作品」と「商品」の最大の違いは、誰に向けて作られているかです。
「作品」は作家自身が作りたいモノであるのに対し、「商品」はお客さんに向けて作られたモノです。
次の分類を見るとイメージできると思います。
作品 | 商品 |
---|---|
1年かけて制作したボトルシップ | 3Dプリンターで制作した手頃なサイズの花瓶 |
子供が粘土で作った怪獣 | レジンのアクセサリー |
砂浜で作ったお城 | ドライフラワーのスワッグ |
なんとなく「作品=高尚なモノ」というイメージがありますが、本質的な違いは「誰を意識しているか」であるとわかりますね。
- 「作品」が目指しているのは、自己満足
- 「商品」が目指しているのは、お客さんの満足
ということです。
根強い愛好家が存在する「ボトルシップ」は、パッと見てわかるように、もの凄い技術の集大成です。
ミニチュアの船を精巧に作るだけでもスゴいのに、それを何故かボトルの中で再現するという、とんでもない縛りプレイをしています。
やはり制作は大変で、とある愛好家の話では、1つ作るのに1ヶ月はザラ。1年かかることもあるそうです(どういう時間配分かは定かではありませんが)。
しかし、その労力に見合う金額を払って欲しいかと聞かれれば、答えは「NO」でしょう。「いやぁ、スゴいけど入りはしないかな」と。
「作りたい人」はいるので、キットの市場はちょっとだけあります。しかし、完成品を求める人はいないので、ハンドメイド作品としての市場はほぼ0。
だからボトルシップは、達人級の腕前の人でも、定年退職後の趣味にしかならないのです。
多くの作品は、「スゴイ!」とは思っても、「欲しい!」とはならないんだな
「スキルさえあれば売れる!」は、幻想なんだね…
インディーズバンドとメジャーバンドから学ぶ「作品」と「商品」
- メジャーバンド
→レコード会社に所属し、レコード会社から楽曲を販売するバンドのこと。マーケティングや流通は、レコード会社が担います。 - インディーズバンド
→レコード会社に所属せず、自費で楽曲を販売しています。
両者の意識の違いを学ぶと、ハンドメイド作家が目指すべき方向性が一目瞭然です。
前提として、どちらのバンドも実力は同等と思って聞いてね!
インディーズバンドは「作品」
血気盛んなインディーズバンドは、「メジャーじゃ俺たちの音楽は表現できねぇ!」と言います。一度メジャー契約したのに、性に合わないとインディーズに戻るバンドもいます。
ここまで記事を読んでくれた人なら、インディーズバンドが「作品」を意識しているとわかるでしょう。
売れることよりも、自分たちの音楽性を貫く「作品」を選んだのがインディーズバンドなのです。
良く言えば、ブレなくてカッコいい!
でも悪く言えば、趣味と仕事を切り分けられなかった結果でもある
メジャーバンドは「商品」
レコード会社はビジネスとして楽曲を販売するわけですから、大衆に売れる楽曲を作ってくれるバンドとしか契約しません。
「商品」に意識を振らなければ、メジャーバンドにはなれません。
自分たちの音楽性を何割かセーブして、大衆にウケるに音楽に寄せなければ売れません。悪く言えば「大衆迎合」です。
そんなビジネスライクな選択によって売れたのが、今日テレビに出ている人気メジャーバンドというわけです。
Creepy Nutsさんは、大衆に寄せて売れたパターンだよね(間違ってたらごめんなさい)
メジャーバンドは永遠に「商品」を作っているか?
両者のバンドとしての価値に優劣はつけ難いものがあります。しかし、「売る・稼ぐ」という一点に対しては、「商品」を作るメジャーバンドの圧勝です。
しかしこの話には続きがあります。
メジャーバンドは、いつまでもウケの良さそうなキャッチーな楽曲を作り、ポップな衣装を着ているでしょうか?
そうではありません。多くのメジャーバンドは、売れた後に自分たちの好きな音楽やスタイルを全面に出すようになっていきます。
つまり、「商品」を売って名を挙げた後に、本当に作りたい「作品」へシフトしているわけです。
堂本剛さんとかそんな感じじゃない?どんどんやりたい方向にシフトしてる
確かにアイドルやってた頃とは全然違うわ
実はこの「商品」→「作品」の順番が重要なんです。
一度売れればファンが付きます。インプレッション(色んな人の目に止まる数)も稼ぎやすくなります。ネームバリューだけで一定の売り上げを作れるようになります。
一度売れっ子になった後なら、「作品」に寄せても売れるんです。これがビジネスの世界のリアルなのです。
ホントにやりたいことで売れたいなら、一度は大衆に魂を売る必要があるってこと!
売れている作家は「商品」を意識している
改めて「作品」と「商品」の違いを、ハンドメイド作家視点で比べてみましょう。
作品 | 商品 | |
---|---|---|
目的 | 自己表現 | 利益 |
制作物 | 自分が作りたいモノ | お客さんが欲しがるモノ |
労力 | 必要あらば惜しまない | 効率よく作る |
コスト | 必要あらば惜しまない | 値段に見合ったコスト |
制作数 | 基本は1点もの | 安定供給できる数 |
値段 | コストに釣り合う値段 | お客さんが買ってくれる値段で、かつコストに釣り合う値段 |
メジャーバンドと同じように、売れている作家の99%は「商品」を意識して制作しています。
制作スキルはあるけど売れない作家が陥りやすいワナが、質の高い「作品」を作ってしまうこと。出来はいいので、「スゴイ!」「カワイイ!」と褒めてくれる人はいます。でも買ってはもらえない。
例えば、「絵画のように美しいステンドグラス窓」を作る作家がいたとしましょう。うっとりするほど美しくても、「どこに置くんだ?」って話です。これでは売れません。
極端な例えかもしれませんが、売れていない作家は同じような状態に陥っているのです。
自分が作りたいものを作ったら、それは「作品」なんだな
売れない原因のほとんどは、「作品を作っちゃってる」or「そもそも制作スキルが圧倒的に足りてない」のどっちかだよ
ハンドメイド作家が意識すべき「作品」と「商品」のバランス
口酸っぱく言っているように、売るためには「作品」から「商品」に意識をシフトしなければなりません。
しかし好きだからこそ、情熱があるからこそ、こだわりのある品質の高い制作ができるのも事実です。
実際のところ、大切なのはバランスです。
「100%の作品」も「100%の商品」も存在しない
実は、「作品」と「商品」は、完全に相反する概念ではありません。作りたいモノとお客さんの欲しがるモノは両立し得ます。
ハンドメイドに限らず、世の中で売られているモノは、「作品」でもあり、同時に「商品」でもあるケースがほとんどです。
100%作品に振り切る、あるいは100%商品に振り切ることは、通常ありません。というよりできないです。
どんなに高尚なアーティストでも、生活のためには誰かに制作物を買ってもらわなければなりません。売るためには、「デュシャンの泉」のような純度100%の「作品」を作るわけにはいかないのです。
デュシャンの泉は、便器にサインしただけの作品。20世紀を代表する現代アート作品の1つだよ
キレッキレの現代アーティストは、他のジャンルより「作品」に寄ってるね
絵画にしても花瓶にしても、誰かしらに買ってもらえるような制作物に仕上げます。お客さんが好む見た目を意識します。そこには少しばかり「商品」の側面が出てくるわけです。
一方で、100円ショップで売られている工業製品であっても、企画した人の想いが込められています。そこには僅かばかりではあるものの、「作品」の側面があるのです。
「作品」と「商品」は、グラデーションの関係になっています。「作品」or「商品」は、白黒ハッキリ分かれるのではありません。
何が言いたいかというと、「作品」or「商品」の完全2択ではないってこと
作品のウェイトは50%を超えてはならない
ハンドメイド作家のポジションは、工業製品よりは「作品」寄りですが、工芸家やアーティストよりは「商品」寄りです。
個人的には、ハンドメイド作家は、建築家に近いポジションだと思います。
設計者の創造性や美的センスは盛り込むものの、主はその建物で過ごす人の利便性。使い勝手が良く、台風や地震などの自然災害にも耐えられて、かつコストは青天井でなくクライアントの予算内に抑える必要があります。
「作者のエゴよりも常に利用者のニーズが優先される」という点で、ハンドメイドと建築は似ていますね。
ゆえに、作品のウェイトは「作品5:商品5」を超えるべきではありません。
かといって、完全に「商品」に寄せちゃうと、ハンドメイドの良さまで消えてしまうよ
工業製品レベルまで「商品」に寄せちゃうと、安い既製品に勝ち目はないので気をつけよう!
初心者ほど「商品」を強く意識しよう!
趣味でハンドメイドをするなら、自分が好きな「作品」を作っている方が楽しいと思います。そもそも趣味なんですから、好きなように作れば良いのです。
しかし稼ぐことを念頭に置くなら、99%のハンドメイド作家は「商品」へ思いっきりとウェイトを寄せるべきです。
「作品3:商品7」くらいがいい塩梅だと思います。
自分の作りたい「作品」はいったん脇に置き、お客さんが欲しがる「商品」を作りましょう。ベースはお客さんが欲しがる「商品」ありき。そこに作家のスキルやセンスでアレンジを加えるイメージです。
お客さんの気持ちを考えるとこから始めないとね
けっこうな意識改革かも
初心者は、「作品1:商品9」の意識で取り組むくらいがちょうど良いよ!
矯正の意味も込めて!
売れてきたら「作品」へシフトしてもOK
ネームバリューで売れるレベルまで到達したハンドメイド作家は、伝統工芸家やアーティストに近いステージにいます。作りたいモノを売っても、欲しがるお客さんが一定数いる状態です。
名を挙げた1%の作家だけが、意匠をこらし、時間をかけ、販売数を減らして単価を上げ、「作品」を売ることが許されるのです。
作品のウェイトが、「作品5:商品5」を超えることが許されるということです。
逆にいえば、ネームバリューだけで売れない99%の作家は、まだ「作品」を売る資格はないってこと
厳しいようだけど、ビジネスってそういうものなんだ
こだわりが強いハンドメイド作家は、純粋な「作品」への憧れがあるのではないでしょうか?
そういう人は、「作品」へのウェイトを寄せて、ハンドメイド作家から工芸アーティストを目指すキャリアも開かれています。
ステキ…❤️ わたしもアーティストになりたい!
逆にそんな高尚なキャリアを望まないハンドメイド作家もいるはず。そういう人は、もちろんそのまま「商品」として制作を続けてもOKです。
または外注やOEM(工場生産の委託)に切り替えて、販売数を増やし、作家から経営者へ転身するキャリアも良いでしょう。
3段階で考える「商品」と「作品」のバランス
とはいえ、「3:7」とか「1:9」とか比率で言われても、ピンと来づらいですよね。
というわけで、作家のレベルを
- レベル1:普通のハンドメイド作家
- レベル2:売れっ子作家
- レベル3:有名作家
の3段階に分けて、それぞれで意識すべき目安をお伝えします。
レベル1:普通のハンドメイド作家
ほとんどのハンドメイド作家は、まず「商品」を意識すると話してきましたね。
ここでのポイントは、「ニーズ」のある商品ジャンルを選ぶことです。
「ニーズ=必要性」という意味です。お客さんにとって、必要な買い物であることが重要です。
先日、「どんぐり共和国(ジブリ作品のキャラクターショップ)」に立ち寄ったときのこと。ふと、「トトロのカラビナ」の前で足が止まりました。
ボクは普段、バックパックにカラビナをつけて、携帯用の消毒剤なんかを引っ掛けています。ボクにとっては、カラビナは必要な商品なんですね。
これがただの人形やキーホルダーだったら、足を止めません。ニーズがあるカラビナの形をしていたから、ボクは欲しいと思ったのです。
例えば「絵画」は、買う必要性がありません。出来が良くても、「へー、ステキな絵だねぇ」で終わってしまいます。
絵画のままだとニーズがないので、
- スマホケース
- Tシャツ
- エコバック
などのニーズがある商品ジャンルに変えて販売しましょう。
単価だけで言えば絵画のままの方が高く売れるけど、そもそも売れないんじゃどうしようもない
まずは売れる「商品」を作る!
レベル2:売れっ子作家
売れっ子作家になったら、「作品」へ舵を切り始めても良いタイミングです。
イメージとしては、作った作品がすぐに売れてしまう状況が続き、「そろそろ単価を上げて、制作数を減らしたいな」と思い始める頃合いです。
このフェーズでのポイントは、作品に「役割」を持たせることです。
って言われてもピンと来ないよね
ここは例を出そう
突然ですが、奈良県は東大寺にある「正倉院」をご存知でしょうか?古代にシルクロードを渡って日本にもたらされた宝物が収めている宝物殿です。
正倉院の宝物は、絵画のような美術作品はほとんどありません。
- 螺鈿が施された琵琶(弦楽器)
- 透かし彫りが施された純銀製の香炉
- 女性が描かれた屏風
- 鳥の頭がモチーフになった水差し
のような工芸品ばかりです。
正倉院の宝物は、作者の名前がありません。後の時代の絵画のように、作者の名前で売れる時代ではなかったのでしょう。
当時の最高峰の素材と技術を持ってしても、ネームバリューで売れなければ、ただの絵画やオブジェでは需要を満たせなかったものと推察できます。
だから楽器や収納箱、食器、花器、宗教的な道具など、「何かしら使い道があり、自宅に置く意味があるもの」としてあつらえられたのではないでしょうか?
宝物ですら、完全にフリーに作品を作ることは許されなかった…!
別になくても困るほどではないけど、あったらあったでちゃんと使い道がある。これが、作品に「役割」を持たせるということです。
オブジェのままではなく、食器や花器にあつらえるアイデアは、現代でも通用しそうです。絵画の代わりに絨毯やティッシュケースにしても良いかもしれませんね。
ネームバリューだけで売れる前は、このラインを超えるべきではない!
レベル3:有名作家
有名作家に、すなわちネームバリューだけで売れるようになったら、作りたい「作品」を売っても良いステージです。
買う必要性もなければ、特に役割もない、絵画やオブジェを売っても買い手がつくステージです。
ここで意識すべきは、買い手の最低限の需要を満たすこと。そうしなければ、気に入っても買いようがない作品になってしまう可能性があるからです。
現代アートのインスタレーションは、美術館以外には置く場所がありません。大きくて部屋に収まらない作品もあれば、家に置いてもどうしようもない作品もあります。
いかに美しくても、10m×5mの巨大な絵画を買う人は少ないでしょう。そんなに大きな壁はなかなかありませんからね。
もちろん自己表現を優先して、買い手の需要を無視した作品を作りたいならそれもOKです。しかし売ってお金を稼ぎたいなら、お客さんを無視できません。
まず最低限として、買う人の家に置けないようなものを売るのは難しいでしょう。
そしてやはり、見た目の良い作品が好まれるでしょう。買った本人が、あるいは遊びに来たお客さんが、「これは素晴らしい!」と思える作品である必要があるわけです。
どんなに強いメッセージが込められていても、「中央に黒い点が1つだけ描いてある絵」を飾りたくはなる人は、ほとんどいないのではないでしょうか?
この域まで来る作家はほんの一握り
ボクも奥さんも未体験のゾーンだけど、論理的に考えればこういう結論になるんじゃないかな
まとめ
「作品」と「商品」の違いを言語化してみたけど、そんなに難しくなかったでしょ?
うん!ぼやぁって持ってたイメージがクッキリした感じ!
この記事のまとめです。
「作品」と「商品」の違い
- 「作品」は、自己表現のために、自分が作りたいモノ
- 「商品」は、お客さんがお金を出してでも欲しがるモノ
- ただし両者は、二律背反ではなくグラデーションの関係
ビジネスとして売るためには?
- 売れる人は、「商品」をより強く意識している
- 「作品」を売りたいなら、まず「商品」を売って名を挙げるべし
ハンドメイド作家が持つべき意識
- 99%の作家は、「作品1:商品9」くらいの感覚でちょうどいい
- ネームバリューだけで売れる1%の作家は、「作品」を意識してもOK
難しく考える必要はありません。
売れっ子作家への第一歩は、「自分が作りたいモノ」から「お客さんが求めているモノ」へ意識をシフトさせることです。
たったそれだけで、止まっていた歯車が少しずつ回り始める
0→1の達成はもう目前!
ただしこれまでの人生の中で、お客さん本位で物事を考えてきた人はごく少数だと思います。多くの人は、「自分本位→お客さん本位」へ180度の意識改革が必要です。
一度意識が反転してしまえば、お客さん本位で考えないと気持ち悪さすら感じるようになりますが、一朝一夕では変わりません。
まずは日々の意識付けが大切です。少しずつ矯正していきましょう。
*なお本サイトでは、制作物を「作品」と読んでいます。これはハンドメイド作家にとって、「作品」という言葉の方が親しまれているからです。しかし実際には、「商品」を意識して制作するように心がけましょう。
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