現役専業ハンドメイド作家の奥さんのマーケティングやってます♪
送料は無料にすべきか、ちゃんと取るべきか。悩ましいところですね。
どちらの意見も一理あります。
ボク自身は、信条としては取るべきだと思っていますが、実を取るなら無料にした方が売れやすいというのがリアル。
ほぼ結論を言ってしまいましたが、
- 「こうしたらもっと売れる!」
- 「これはやっちゃダメ!」
という細かいテクニック論も用意しています。
また単に「安いから」ではなく、送料無料が売れやすくなる「深〜い心理メカニズム」も解説しちゃいます。
この記事を読んだ上で、「いや、わたしはしっかり送料を貰おう!」という意見もアリ(本音を言えば、そうなってほしい)。
とりあえず、この記事だけ読んでおけば、
- 送料を無料にすべきか否か?
- するならどう立ち回るか?
が全てわかります。
ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
送料無料の功罪
「送料無料」は、あるシーンでは正義でした。過去においては、正しい選択だったかもしれません。しかし現代では、負の側面の方が強く出てしまっています。
その事実を語るところから始めましょう。
なぜ、送料無料が当たり前になったなのか?
日本のEC商習慣では、「送料は無料で当たり前」という感覚が根付いています。
そうなってしまったのは、ネット黎明期のEC先駆者たちが、こぞって「送料無料」を武器にしたからですね。
ただこれは、当時を振り返れば無理もないこと
アメリカのようにだだっ広い国なら、自宅まで届けてくれるコストを支払うマインドもあったかもしれません。
しかし日本は、そう大きくない国土で、交通インフラも商業施設も整っています。近所のお店で、一通りのモノは揃ってしまうありがたい環境です。
当時の日本人に、わざわざ送料を払ってやるようなマインドはありませんでした。
ネットでモノを買う習慣がない時代に、ネットで買わせるためには、送料はどうしても足枷になってしまったのです。
ちょっと(?)前まで、ネットでモノ買う人なんて少数派だったもんなぁ
「送料無料で、やっとリアル店舗とイーブン。やっとスタートラインに立てる」
これが、ネット黎明期のEC事業者の共通認識だったのです。
おかげさまで、今日の日本ではEコマースがしっかり普及しました。そして、「送料は無料で当たり前」という文化(もとい負の遺産)だけが残ってしまったのです。
送料は本来有料であるべき
大いに私見を挟みますが、「送料は有料であるべき」と強く思っています。
- 送料は、配送業者が行う「配送サービス」への対価
- 商品代金は、あくまで「商品」への対価
別々の事業者が、別々に提供しているわけですから、本来別れていて然るべきです。
これはビジネス全般に言えることなのですが、実際にかかる費用の内訳と、お客さん向けの金額の内訳がズレると、ある種の「歪み」が生じます。
送料が有料であれば、配送に関する問い合わせは、配送業者に行くのが普通です。遅延に対する怒りの矛先も、やはり配送業者になるはずです。
しかし送料無料にしていると、何となく配送業者は裏にいて、お客さんはもっぱらショップと取引している気分になります。
だから、本来は範疇外の配送に関して、問い合わせも怒りの矛先も、ショップの方に行ってしまうのです。
ボクはたまに海外のネットショップを使うのですが、たまに配送トラブルに見舞われることがあります。
彼らは「俺らの手続きは終わった。後は配送業者の仕事だから知らん。なんかあるなら、配送会社と直接話せ」と平気で言ってきます。
日本人感覚だと、「海外ショップは対応が悪い!」と言いたくなるところ。ですが、冷静に考えるとそれが当たり前なんですよね。
日本全体で「送料無料」の感覚が根付いてしまったせいで、配送に関する責任までネットショップ側に寄ってしまっているんだね
送料が上がったらどう対応する?
またこの先に、送料が高騰する未来が訪れたらどうなるでしょう(実際に、その可能性は高い)?
もし「送料有料」にしていれば、「商品代金」と「送料」は分離していることになります。「商品」の値段は変わらず、「送料」だけがアップする格好になりますね。
お客さんも、「配送業者が、送料を値上げした」という認識になるでしょう。ショップは無関係ですから、なんの対応も必要ありません。
しかし、「送料無料」としていた場合はどうでしょう?
「商品代金」の中に「送料」が含まれていることになります。利益を維持するためには、「送料」が上がった分、「商品代金」を上げざるを得ません。
お客さんの認識は「ショップが、商品を値上げした」になるでしょう。
本来は無関係なショップ側が、「送料が高騰しているため、値上げせざるを得ませんでした…」と説明して、お客さんの理解を得なければなくなるのです。
ネットショップ側が、送料に+αを乗せて小銭を稼いでいたなら納得です。しかし実際には、送料は配送業者に渡っていて、ショップ側は送料で1円も儲けていません。
これを「歪み」と言わずして、何と言うのか?
なるほど…。確かに長い目で見ると、問題になりそうだね
送料にまつわるお客さんの心理
ちょっとお勉強の話をします。人間の心理が、「送料」をどういう風に認識しているのかを紐解くためです。
行動経済学の「プロスペクト理論」を使うと、意外な真実が見えてきます。
別に「プロスペクト理論」という言葉を覚える必要はない。こういうメカニズムがあることを、何となくでも理解してほしい
「送料=損失」である
ここで、プロスペクト理論の概要を、かいつまんで紹介します。
プロスペクト理論の概要
- 損失回避性
「利益」から得られる満足よりも、同額の「損失」からもたらされる苦痛の方が、2倍大きく感じる - 参照点依存性
「利益」か「損失」かの基準は、「0」とは限らず、ある参照点からの変化で判断する
損失回避性は、「人間は、損することが大っ嫌い!」と思っておけばOKです。
参照点依存性は、字面だとイマイチピンと来ませんが、実例が伴うとよくわかります。
「送料は有料」が当たり前の世界では
- 「送料=有料」が基準
- 送料がかかるのは、損でも得でもないイーブン
- 送料が無料になったときは、「得した(=利益)」という解釈に
「送料は無料」が当たり前の世界では
- 「送料=無料」が基準
- 送料がかからないのは、損でも得でもないイーブン
- 送料が有料になったときは、「損した(=損失)」という解釈に
で、すでに述べた通り、人間は損することが大っ嫌いなわけだ
あ、先の展開が読めてきたぞ…
「送料無料」は間違いなく売やすい
送料が無料の世界では、送料は「罰金」のような扱いです。
- 席のチャージ料
- 予約料
- チップ(日本人感覚での)
のように、「本来なら払わなくていいのに、払わされるお金」という感覚になります。
「チャージ料」や「予約料」が気になって、飲食店を候補から外した経験がある人も多いのではないでしょうか?
あるあるあるある!めっちゃある!
1970年代のアメリカは、クレジットカード決済が広まりつつある時代でした。
小売店からすると、手数料を支払うクレカ決済は、売上減になってしまいます。そこで一部の小売店は、手数料の分、クレカ払いの価格を高めに設定したのです。
これに反発したクレジットカード会社は、支払い方法による価格差を禁じるルールを設けます。しかし政府によって無効にされてしまいました。
クレジットカード会社は苦肉の末、小売店に次の条件を出しました。
- クレジットカード払いの金額を「通常価格」と表記する
- 現金払いの場合は「現金値引き」と表記する
当初のように現金払いが「通常価格」なら、クレカ払いは「割高価格」となります。割高で買うのは「損失」なので、お客さんはクレカ払いを避けるようになってしまいます。
しかしクレカ払いが「通常価格」なら、「まぁいいか」とクレカ払いを避ける人は間違いなく減ります。クレカ会社は、この心理を理解していたんですね。
「送料」も同じく、感覚的には「損失」です。無料にした方が、間違いなく売れます。
お客さんの心理を厳密に言い表すなら、「送料が無料だから売れる」は誤りで、「送料が有料だと売れづらくなる」が正しいですね。
「送料無料」の賢い使い方
というわけで、僕の信条は「送料は取るべき」ですが、実際には「送料無料」にした方が売れます。
ここでは、「送料無料」を選んだ作家に向けて、賢い立ち回り方法を解説します。
積極的にやって欲しいわけではありませんが、この通りにすればもっと売れてしまうんですよね。
送料分を商品単価に上乗せする
当たり前のようで、当たり前じゃない話をします。
「送料無料にする」ということは、「作家側が送料を負担しても、利益が出る金額で売る」ということ。つまり、商品単価に送料を上乗せすることになります。
まぁ、当たり前の話だな
うん、ここまではね。この後が、意外な真実だ
次の値付け設定を見てみてください。
- 送料ありパターン
商品:8,000円
送料:1,000円 - 送料無料パターン
商品:9,000円
送料:0円
合計は、どちらも「9,000円」ですね。
ですが、お客さんの印象としては、「送料無料パターン」の方が少ない負担に見えます。先に紹介したプロスペクト理論による錯覚です。
送料は「損」という解釈になるので、理論上は2倍相当の負担に感じます。となると、「送料有料パターン」は、実際には合計10,000円程度に感じていることになります。
というわけで、商品単価を上げてでも送料無料にしてしまった方が、理論上は売れやすいということになるのです。
地域による送料の違いをどう対処するか?
全国どこでも定額で送れるレターパック等でない限り、送り先によって送料が変わってきます。2倍以上の開きが出ることもあります。
商品代金に送料を含めてしまう場合、エリアによる送料の差をどう反映すべきでしょうか?
ボクのオススメは、どこへ送っても利益が取れる値段設定にしておき、送り先に関わらず商品は同額。差額は呑み込んでしまうという方法です。
「薄利多売」のビジネスであれば、少ない利益の中で、確実に利益を残さなければなりません。北海道や沖縄、離島は、プラスの送料をもらわざるを得ないかもしれません。
しかしハンドメイドは、高く少なく売る「厚利少売」が基本。遠方に送る+αの送料によって、利益がわずかしか残らないなら、そもそもの値付けに問題があります。
イレギュラーな遠方への発送件数は、そう多くありません。適切な値付けをしていれば、仮に10件に1件、遠方の送料にかかるコストを負担しても、痛手にはなりません。
まぁ送料は一律で考えてた方が、楽っちゃ楽だよね
大昔のヤフオクで、住所を聞いてから送料を調べて、「落札金額に、この送料を加えた総額をお支払いください!」って案内してたのを思い出すよ
送料を込みで、ちょうど良い値頃感に
値段の「桁」や「位」が変わると、値頃感の印象も変わります。
例えば「10,000円」と「9,900円」は、差額はたった「100円」ですが、心理的にはもっと大きな差に感じます。
だから、少しでも安く見えるよう、桁や位を1つ下げた値付けをするのです。極端な話、「9,999円」でも効果はあります。
更に言えば、1万円を超える場合、「10,800円」も「11,800円」もあまり変わりません。どちらも「1万円ちょい」の感覚です。ならば、「11,800円」貰えば良いでしょう。
1万円を下回る場合は、「8,800円」も「9,800円」も大して変わりません。どちらも「1万円弱」の感覚です。ならば、「9,800円」にすべきでしょう。
スーパーとか家電量販店とかでよく見るヤツだ!
これだけ皆がやっている施策は、効果が約束されているってことだよ!
ここまでは、送料に関係ない、一般的な値付けのテクニック論です。
ここに送料をプラスするケースを考えましょう。送料を加えた上で、ちょうど良い値頃感に見せなければ台無しです。
商品「9,800円」に、送料「+1,000円」を加えて、合計「10,800円」にしてしまっては、値付けとしてはキリが悪いですね。
それなら、
- 商品は「8,800円」にして、合計で「9,800円」
- 商品は「10,800円」にして、合計で「11,800円」
のどちらかにすべきです。
ちなみにこの話は、送料を有料とする場合でも同様です。
「9,800円」の商品をカートに入れて、決済画面で「合計10,800円」と表示されたら、どう感じるでしょうか?
「あ、1万円超えちゃうのかぁ…」と、一瞬のためらいが生じます。そのためらいが、購入を考え直すきっかけになり、いわゆる「カート落ち」の原因になるのです。
それ、めっちゃある!
「大台超えちゃったかぁ」って、考え直しちゃうんだよね
「送料無料」になる閾値を設ける
「合計〇〇円以上注文いただくと送料無料」という閾値(しきいち)を設けるのも、古典的なやり方ですね。個人的には、これがオススメです。
無条件の送料無料ほど、購入率は上がりませんが、
- アップセル
より単価の高い上位商品を買ってもらう - クロスセル
関連商品も一緒に買ってもらう
を誘発できます。客単価を上げられるということです。
(言うまでもないかもしれませんが)ポイントは、
- もう1点買ったら送料無料になる
- ハイグレード版(松竹梅の「松」)なら送料無料になる
という絶妙なラインで、閾値を設定することです。
単価が「9,800円」の作品を扱っているのであれば、「合計10,000円以上注文いただくと送料無料」にすれば良いでしょう。
「松9,800円、竹5,800円、梅3,800円」なら、「合計7,000円以上注文いただくと送料無料」がいい塩梅。松を買うか、梅を2個以上買わないと、送料無料になりません。
minneやCreemaなど、大抵のプラットフォームは対応しているよ。ぜひ設定してみてね
「送料無料」を売りにしない
ハンドメイド作家は、「送料無料」をアピールしてはいけません。
例えば、「作品名の頭」や、「作品画像の1枚目(サムネイルとしても使われる)」に【送料無料】と、つけてはいけません。
というより、安さを訴求する売り方自体が、原則NGだと理解してください。
理由は、ブランドの価値を下げるからです。
ハンドメイドのマーケティングは、「ハイブランド」のやり方が参考になります。雰囲気は違えど、「どこまで単価を上げられるか?」が勝負のビジネスであることは共通です。
果たしてハイブランドが、「送料無料!」を売りにするでしょうか?
そんなダサいことはしませんね。どんな形であれ、「価格で訴求すること自体が、ブランドの価値を下げる」と、よくよく理解しているからです。
冷静に考えてみましょう。
あなたは、「服」や「バッグ」や「インテリア」を、「送料無料」を理由に選ぶでしょうか?デザインや機能を差し置いて、「送料無料」が決め手になるでしょうか?
ペットボトルの水とか、トイレットペーパーじゃないんだからさ
また一般論として、「送料無料」を売りにするのは、仕入れ販売を行う販売店のやり方です。
販売店の場合、他店でも同じ商品を扱っているので、商品そのものでは差別化できません。だから商品以外の売り文句、主に「値段の安さ」で勝負しようとするのです。
一方でハンドメイド作品は、作家本人からしか買えません。他に販路があっても、ちょろっと委託販売があるくらいでしょう。
他の誰も売っていない作品を、他店より安く見せる必要はありません。競合がいないなら、いの一番に価格を訴求する必要はありません。
ブランド直販のサイトで、安さをアピールするってないもんね
もし、「いや、ライバル作品との価格競争があるから…」と思うなら、もっと手前で間違いを犯しています。ブランディングや商品設計の時点でミスっています。
いくらでもユニークな作品が作れるのが、ハンドメイドですよね?にも関わらず、他の作家と横並びで、値段を比較されている時点で、何かおかしいと気がついてください。
あなたの作品の売りは、「値段」ですか?
もし答えが「Yes」なら、あなたがやっているのは、ただの主婦の趣味だ
いずれは送料に左右されない作家になろう
「送料無料」は、間違いなく購入率を底上げする施策です。
しかしハンドメイド作家は、いつかは送料無料を卒業するべきでしょう。
というのも、ハンドメイドは生産量に限界がある商売です。仮に、月に「30個」作れるキャパだとすれば、「31個目以降」の需要には応えられません。
ちょうど、数が絞られた「数量限定商品」のような立ち位置だね
ボクはスニーカーが好きなのですが、レアなアイテムはなかなか定価で手に入りません。買えるチャンスがあるなら、送料が無料か有料かは一切気にしません。
いま買わなければ、手に入らなくなるか、もっと高いプレミア価格で買うしかありませんから。
ある程度売り切れる作家になった後は、送料が無料でも有料でも、売れる数は結局30個です。この先は、安く売る意味がありません。
ならば、送料はフツーに取れば良いでしょう。
「送料有料」が当たり前の世界にならんことを…
みんなが送料無料にするから、わたしも送料無料にする。こういうビジネス環境になってしまったのが、日本のEコマースです。
難しい言葉を使うと、全員が送料無料にするのが「ナッシュ均衡(理論上の最善手)」になってしまっているのです。この均衡は、如何ともしがたいでしょう。
しかし、ハンドメイド作家は違います。
そこでしか買えないユニークな作品を売っている以上、本来であれば「送料無料」など必要ありません。商品では差別化できない、仕入れ販売のお店とは違うのです。
多数のハンドメイド作家が、売り切れるくらい成功するようになれば、送料を有料にしても売れる数は変わりません。
そうなれば、ハンドメイド界隈だけは、「送料は有料で当たり前」という世界になるでしょう。
まだ売れていない作家さんもや、これから活動開始する作家さんも、「送料無料」という歪みを生じさせる施策に走らなくて良くなります。
そんな健全な商習慣になることを期待して、この記事を締め括ろう!
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